【IT・Web業界の事例】大口受注が逆にピンチ?ファクタリングで外注費を確保し、事業を軌道に乗せた制作会社

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「嬉しい悲鳴」という言葉があります。

しかし、中小企業の経営の現場において、その悲鳴は本当に会社を潰しかねない、断末魔の叫びになることがあるのです。

どうも、元銀行員の遠藤です。
長年、中小企業向けの融資に携わってきましたが、特にこのIT・Web業界は、事業の成長スピードと現金の流れが一致しにくい、独特の難しさを抱えています。

順調に売上を伸ばしているはずが、なぜか資金繰りは火の車。
これは、決して他人事ではありません。

今回は、あるWeb制作会社が「大口受注」という最大のチャンスを、いかにして「黒字倒産」の危機から救い、成長軌道に乗せたのか。
その事例を通して、攻めの経営を実現するための「資金調達の本質」について、お話ししたいと思います。

なぜ「大きな仕事」が会社を潰しかねないのか?

事例紹介:順風満帆に見えたWeb制作会社が陥った落とし穴

ここに、創業5年目、従業員10名のWeb制作会社「A社」がありました。

技術力とデザインセンスが評価され、業界内でも評判は上々。
これまで手掛けてきた仕事が実を結び、誰もが知る大手企業から、大規模なWebサイトリニューアルという大型案件を受注することになったのです。

まさに、会社が一つ上のステージに上がる絶好の機会。
社員一同、大きな喜びに沸き立ったのは言うまでもありません。

しかし、この大きな仕事こそが、A社を倒産の淵に追い込むことになるとは、この時誰も想像していませんでした。

IT業界特有の構造:売上と入金の「時間差」という名の悪魔

なぜ、順調なはずのA社がピンチに陥ったのか。
本質は、IT業界特有の「売上と入金の時間差」にあります。

この業界では、案件を受注してから、実際に現金が振り込まれるまでの期間、いわゆる「支払いサイト」が数ヶ月後になることも珍しくありません。

一方で、大規模な案件になればなるほど、多くの外部パートナー(フリーランスのデザイナーやエンジニアなど)の力が必要になります。
彼らへの支払い(外注費)は、納品後すぐに、あるいは前払いで発生することが多い。

つまり、収入(入金)は数ヶ月先なのに、支出(支払い)は「今」なのです。
この時間差こそが、帳簿上は黒字でも手元の現金が尽きてしまう「黒字倒産」を引き起こす悪魔の正体です。

A社も例外ではなく、目の前の外注費の支払いに窮し、会社の預金残高はみるみるうちに減っていきました。

なぜ銀行融資では間に合わなかったのか?金融機関の論理と現場のズレ

追い詰められたA社の社長は、当然、メインバンクに駆け込みました。
しかし、銀行の反応は鈍かった。

私が銀行員だった頃もそうでしたが、銀行の融資審査は「過去の実績」と「担保」を重視します。
そして、何より時間がかかる。

  • 審査には数週間から数ヶ月を要し、急な資金需要には対応できない。
  • 創業間もない、あるいは急成長中のIT企業は、まだ十分な決算実績がない。
  • 不動産などの担保資産を持っていないケースが多い。

銀行には銀行の論理があり、リスクを極小化するのが彼らの仕事です。
しかし、その論理が、スピード感が命であるIT企業の現場の現実と、大きくズレてしまっている。
A社も、この「ズレ」によって、頼みの綱であった銀行融資の道が閉ざされかけていたのです。

窮地を救った「ファクタリング」という戦略的な一手

要するにファクタリングとは何か?銀行融資との本質的な違い

ここでA社の社長が下した決断が、会社の命運を分けました。
それが「ファクタリング」の活用です。

要するに、ファクタリングとは「請求書(売掛金)を買い取ってもらう」サービスのこと。
まだ入金されていない請求書をファクタリング会社に売却することで、手数料は引かれますが、即座に現金を手に入れることができる仕組みです。

銀行融資との本質的な違いは、これが「借金」ではない、という点に尽きます。
両者の違いを、表で整理してみましょう。

項目ファクタリング銀行融資
性質売掛金の売却(資産の現金化)借入(負債の増加)
審査対象売掛先(取引先)の信用力が主申込企業の信用力・返済能力が主
調達速度最短即日〜数日数週間〜数ヶ月
担保・保証人原則不要求められる場合が多い
信用情報影響なし(借入ではないため)記録される

A社の場合、自社の決算内容よりも、取引先である「大手企業の信用力」が重視されたため、迅速な資金化が可能となったのです。

「最後の手段」ではない。攻めの投資を生み出すための活用術

いまだにファクタリングを「高利貸し」「最後の手段」と誤解している経営者がいますが、それは古い認識です。
健全なファクタリングは、攻めの経営を支える、極めて有効な財務戦略の一つです。

今回のA社のように、急な大口受注で発生する「つなぎ資金」を確保する。
これにより、ビジネスチャンスを逃すことなく、事業を拡大できるのです。

手元の現金が増えれば、外注費の支払いに怯える必要はなくなり、より優秀なパートナーと組んで仕事の質を高めることもできる。
まさに、守りではなく「攻め」の投資を生み出すための活用術と言えるでしょう。

命運を分けたパートナー選び。経営者が行った「目利き」の3つのポイント

ただし、どんなファクタリング会社でも良いわけではありません。
A社の社長が成功したのは、まさにこの「パートナー選び」の目利きが優れていたからです。
彼が重視したポイントは、以下の3つでした。

1. 手数料の妥当性
手数料は安ければ良いというものではありません。
相場(2社間なら8〜18%程度)から著しく逸脱していないか、契約内容に見合っているかを冷静に判断しました。

2. 契約内容の透明性
契約書がきちんと「債権譲渡契約」となっているか、不明瞭な費用が後から請求されるような条項がないかを、専門家にも相談しながら徹底的に確認しました。

3. 償還請求権の有無
「償還請求権なし(ノンリコース)」の契約であることを絶対条件としました。
これにより、万が一、売却した請求書の取引先が倒産しても、その責任をA社が負う必要がなくなります。このリスクヘッジが何より重要です。

囲碁で「大局観」が重要なように、経営においても、どの会社と組むかという「一手」が、会社の生死を分けるのです。

ファクタリング導入後、会社はどう変わったのか

外注費への不安解消がもたらした、事業成長の加速

ファクタリングによって無事に外注費を確保したA社。
その効果は、単に「支払いができた」というレベルに留まりませんでした。

これまで支払いの遅延を懸念して発注を躊躇していた、腕利きのフリーランスや協力会社にも、迅速に支払いができるようになりました。
その結果、A社の周りには優秀なクリエイター陣が集まり、制作物のクオリティが格段に向上。
クライアントからの評価はさらに高まり、次の大型案件の受注へと繋がっていったのです。

資金繰りの不安解消は、事業成長を加速させる最高のガソリンとなったのです。

資金繰りから解放された経営者の「次の一手」とは

そして、最も大きな変化は、経営者自身に訪れました。

日々の支払いに追われる「資金繰り地獄」から解放された社長は、ようやく、本来やるべき未来への投資に目を向けることができるようになったのです。

彼は、今回の経験からキャッシュフローの重要性を痛感し、安定した収益基盤を作るために、自社独自のサブスクリプション型サービス開発に着手しました。
目の前の火消しに追われるのではなく、5年後、10年後を見据えた「次の一手」を打つ余裕が生まれた瞬間でした。

この事例から学ぶべき、持続可能な成長サイクルの作り方

この事例から我々が学ぶべきことは、資金調達がいかにして持続可能な成長サイクルを生み出すか、ということです。

ファクタリングでキャッシュフロー改善 → 優秀な人材の確保・質の向上 → 事業成長と利益拡大 → 財務体質の強化 → さらなる未来への投資

A社は、この好循環のサイクルを回し始めたのです。
目先の資金繰りだけでなく、事業全体を前に進めるための戦略的な選択が、会社を根本から強くしたと言えるでしょう。

まとめ

事例が示す「大口受注のピンチ」を乗り越えるための3つの要点

今回の事例が示す、成長企業が「嬉しい悲鳴」を本当の喜びに変えるための要点を3つにまとめます。

  • 事業拡大に伴う「入出金の時間差」というリスクを正しく認識すること。
  • 資金調達の選択肢を、銀行融資だけに限定せず、複数持っておくこと。
  • ファクタリングを利用する際は、手数料だけでなく契約内容を精査し、信頼できるパートナーを「目利き」すること。

私が伝えたいこと:自社の状況を見極め、最適な「一手」を打つ重要性

私が長年の銀行員生活で見てきたのは、ほんの少しの知識や判断の差が、会社の未来を大きく左右するという現実です。

囲碁と同じで、定石を知っているだけでは勝てません。
刻一刻と変わる盤面、つまり自社の状況を正確に見極め、今、どこに石を置くべきか。
その最適な「一手」を打つことこそが、経営者には求められます。

ファクタリングは、その選択肢の一つに過ぎません。
しかし、知っているか知らないか、使えるか使えないかで、結果は天と地ほど変わるのです。

今、資金繰りに悩む経営者へ送るメッセージ

もし今、あなたがかつてのA社のように、資金繰りに頭を悩ませているのであれば、一人で抱え込まないでください。

あなたの会社が持つ「請求書」は、あなたが思っている以上に価値のある「資産」なのかもしれません。
正しい知識を身につけ、自社にとって最善の道は何かを冷静に探ること。
その行動こそが、必ずや突破口を開くはずです。

あなたの会社が、目先の危機を乗り越え、力強く成長していくことを心から願っています。

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